人事・給与を別システムで導入すると、なぜ失敗しやすいのか
上場企業において、約30社に1社は給与システムとは別に人事システムを導入しています。
多くの場合、
・人事システム:タレントマネジメントに必要な情報を中心に管理
・給与システム:給与計算に必要な情報のみを連携
のような構成になっています。
従業員の生産性を「人的資本」として捉える流れが強まる中で、この構成を検討する企業は今後さらに増えていくでしょう。
一方で、この構成は合理的である反面、導入時には注意すべきポイントが多いのも事実です。
実際に私が「人事・給与システムを有効活用したい」という相談を受けるうちの半数は、人事と給与を別システムで運用していることに起因する課題を抱えていました。
そこで今回は、人事と給与を別システムで運用した場合に発生しやすい課題と、その解決に向けたアプローチをご紹介します。
発生しやすい課題
① 人事情報の二重登録
上場企業では、さまざまな人事情報を管理しています。
これらの情報は基本的に人事システムに集約されますが、給与システム側にも多くの人事情報を登録する必要があります。
例えば、組織情報・従業員の個人情報・発令情報などです。
上場企業の給与計算のためには、一般的に数百の給与項目が存在すると言われています。
そのため、毎月、人事システムから大量の情報を給与システムへ取り込む必要があります。
人事・給与システムが同一パッケージであれば、この連携は自動化されるケースがほとんどです。
一方で、別パッケージの場合は、個別にインターフェースを開発し、さらに毎月のデータ更新も手作業で対応する必要が出てきます。
しかも、このインターフェースは1本では済みません。
給与計算を正しく行うためには、次のようなデータを都度連携する必要があるからです。
・従業員の個人情報から今月40歳になる社員を抽出し、介護保険対象者として給与システムに連携する
・発令情報から寒冷地手当の対象となる所属へ異動した従業員を抽出し、給与システムの該当項目に反映する
・資格取得情報から資格手当支給対象者を抽出し、給与システムに連携する
このような連携のためのインターフェイスを複数構築し、漏れなく運用するのは、非常に手間のかかる作業になります。
② 人事システムが使われなくなる
①のように連携の手間やコストが大きくなると、現場では次第に
「両方に手で登録してしまおう」
「給与システムだけにデータをいれればよいのでは?」
という運用に寄っていき、人事システムが形骸化してしまいます。
また、そもそもの導入目的が曖昧なケースも少なくありません。
「タレントマネジメントを実現したい」
という理由で人事システムを個別のパッケージにて導入したものの、導入後に、
・自社にとってのタレントマネジメントが定義されていない
・実際には社員検索や情報参照しか使っていない
といった状態に陥ることはよくあります。
ちなみに人事システムのコストは、
-
1人あたり年間:5,000円〜30,000円
-
全社では:数百万円〜数千万円/年
と、決して小さくありません。
だからこそ、
「現場が使いこなせる前提で設計されているか」は、導入前にしっかり検討する必要があります。
課題へのアプローチ
“TOBE像を明確にする”
まず、「なぜ人事システムを独立させるのか」という目的を明確にし、TOBE像を具体化することが重要です。
ここが曖昧なままだと、導入途中で
「結局何がしたかったのか」
「この程度ならExcelでもよいのでは」
という状態になりがちです。
タレントマネジメントの実現も含む、人的資本における生産性向上に向けた施策は経営課題そのものです。
そのため、導入プロジェクト開始前の段階から経営層を巻き込んで検討しておくことも重要な要素です。
では、TOBE像とはどのようなものか。
レストランチェーンを例にご説明します。
よくある課題の一つが、店長の育成です。
「出店したいが店長が足りない」「店長によって売上に差がある」「異動すると成績が安定しない」などです。
このような課題に対して有効なのが、
・スキル評価と人事評価の連動
・スキルとポジション管理の連動
です。
売上は重要な指標ですが、あくまで結果です。
様々な要因が絡むため、必ずしも店長・店長候補者本人のスキルを体現しているとは言えません。
そのため、育成には、成果につながる行動(先行指標)を捉える必要があります。
例えば、店長に必要なスキル(発注、採用、清掃管理など)を定義し、その習得度を評価に組み込みます。
さらに、店舗ごとの特性に合わせて重点スキルを設定することで、成果と成長の両立が可能になります。
こうして蓄積したスキル情報を活用すれば、
「誰にどの店舗を任せられるか」
「どのように異動させるべきか」
「出店計画に対して誰をどこまで育成する必要があるか」
といった判断ができるようになります。
このように、経営課題を人事の仕組みで解決できている状態がTOBE像です。
その実現には、事前の現状分析と経営のコミットが欠かせません。
人事システムを給与システムと分けて運用すること自体は、現実的な選択肢です。
ただし、設計を誤ると活用を阻害する要因にもなります。
だからこそ重要なのは、
-
導入前に目的を明確にすること
-
TOBE像を具体化すること
-
経営を巻き込んで設計すること
です。
システムは導入して終わりではなく、
使われて初めて価値を生みます。
その前提を忘れず、設計していきましょう。
